姫乃たまのR18 第1回「エロ本と私」

カビた手作りのチーズケーキをもらって、喜んだことはありますか? ホールに丸ごと白雪が積もったような。私はあります。
ぐしゃぐしゃの茶封筒に入れられたネックレスをもらって、微笑んだことはありますか? しかもモチーフが割れている。私はあります。
自分の裸体が想像で描かれた鉛筆画をもらって、嬉しく思ったことはありますか? 私は、あります。
とある年のクリスマス、私はエロ本の編集部でこれらのプレゼントを受け取りました。ほかにも、本屋さんのレジ横に置いてあるしおりとか、雑誌付録の小さなカレンダーとか。エロ本の読者さんから贈られてくるプレゼントは、いつでも子供みたいな期待と愛に満ちていて、私にはそれが愛おしかったのです。
チーズケーキには、「手作りです。たまちゃんだけで食べてね」
と手紙が添えてありました。とても私だけでは食べきれない大きさ。白雪みたいなカビが、手作りであることを証明しているようで微笑ましかったのを覚えています。
くすりと肩をすくめて笑う私の隣では編集さんがふたりだけ働いていて、その周囲には他部署から押し付けられた雑誌のバックナンバーや、不要なオフィス家具が溢れていました。街はクリスマスムード一色。でもその年末は、とても楽しいものではありませんでした。編集部から編集者がひとり減らされ、ふたり減らされ、ほとんど他部署の物置にされたエロ本編集部は、命綱であるエロ本がいまにも休刊しそうでした。
それは同時に、私と読者さんを繋ぐ糸が切れることも意味しています。そのことを考えると、郵送されている間にチーズケーキにカビが生えて、ネックレスが壊れるほどの遠い距離を、近くに感じていた読者さんとの間にひしひしと感じます。
私は18歳の頃から、エロ本で「ハガキコーナーのお姉さん」をしていました。読者さんから送られてくるハガキに誌面でコメントをするお仕事です。エッチな願望や、思い出話などが、一冊のエロ本を通じて届きます。
ほとんどの人が遠いところに住んでいて、インターネットが苦手で、月に一度エロ本を買ってハガキを送ってくれていました。私は彼らの話がもっと聞きたくて、次第にハガキを送ってくれた人たちと文通をするようになりました。
両親の介護のこと、衰えていく自分の心配、女の子とデートをしてみたいこと、いつかのラッキースケベの話。手書きの手紙が愛おしくて、そしていつもエロ本がなくなったらどうしようという焦りで胸がじりじりするのを感じていました。
「なんでみんな不倫に対してあんなに怒ってると思う?! 自分も不倫したいからなんだって絶対! だってさ、アイドルがさー、議員になってさー、車で不倫セックスしてるとかこれまで聞いたことある? なかったよね! 俺もすっごい気に […] 姫乃たま(ひめの たま)地下アイドル/ライター 1993年2月12日、下北沢生まれ。16才よりフリーランスで地下アイドル活動を始め、ライブイベントへの出演を中心に、文筆業も営む。音楽ユニット「僕とジョルジュ」では、作詞と歌唱を手がけており、主な音楽作品に『First Order』『もしもし、今日はどうだった』、僕とジョルジュ名義で『僕とジョルジュ』『僕とジョルジュ2』、著書に『職業としての地下アイドル』(朝日新聞出版)『潜行~地下アイドルの人に言えない生活』(サイゾー社)がある。 Twitter ● https://twitter.com/Himeeeno姫乃たまのR-18
アップル写真館 姫乃たまのR18 第2回「不倫」
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